受賞・表彰

運動器の10年・日本賞 奨励賞を受賞して

弘前大学大学院医学研究科 整形外科学講座 大学院3年生 千葉大輔

 忙しかった平成26年もあっという間に年末になり、慌ただしい一年を振り返って惚けていた私に教授から目が覚める一通の通知を頂きました。その内容は運動器の10年・日本賞の奨励賞に『岩木健康増進プロジェクト』が該当したという通知でした。A4の紙1枚に壮大な岩木健康増進プロジェクトの内容を要約するだけの文才を持ち合わせていない自分が受賞することは無いだろうと思っていたので、結構仰天しました。
 『運動器』を当たり前のように扱っている我々でも『運動器の10年』という言葉を何となく知っていても、その言葉の裏に込められたメッセージをしっかりと考える機会が少ないように思います。運動器の10年に関するHPを確認すると、運動器を扱う我々整形外科医が肝に命ずべきズシリと重い荘厳なテーマが描かれています。『世界保健機関(WHO)の”BONE AND JOINT DECADE 2000-2010”に呼応し、世界各国と連携して、種々の原因による運動機能障害からの開放を目指し、終生すこやかに身体を動かすことができる「生活・人生の質(Quality of Life: QOL)」の保証される社会の実現を2010-2020年も目指し続ける』という基本理念、さらに背景・趣旨を抜粋すると『運動器の障害はその頻度が極めて高く、QOLを低下させ、さらに生命予後にも多大な影響を及ぼし、社会に与える負担が大きいにも拘らず、これまで社会的に重視されていないのが現状である。しかしながら、運動器の病気や障害に悩み、苦しむ人達の数は多く、生活機能やQOLの観点から、また社会経済的の観点からも決して見過ごすことは出来ない。例えば、小児の運動機能障害、スポーツ外傷、四肢・脊椎の外傷、腰痛、関節痛(変形性関節症やリウマチ性疾患など)、骨粗鬆症とそれに伴う骨折、など、いくつかの病気を取り上げても、ほとんどの人は子供時代から高齢に至るまでのその生涯の中で、何らかの運動器に関する悩みや苦痛を経験し、持っているものである。』と記されています。この内容は我々運動器を扱うプロフェッショナルが胸に刻んでおくべきメッセージであり、かつこれからの若い医師が熱意を持って取り組むべきテーマが山程残されていることの裏付けでもあるように思います。(私も一応若い方なのに偉そうで申し訳ございません…)
 今回の受賞は大変に名誉なことです。何故なら、現在進行中で行われている岩木健康増進プロジェクトが日本の運動器の健康増進モデルの代表として注目に値すべきであると判断されたからです。社会医学講座が主体となり、我々整形外科学講座も精力的にバックアップさせて頂いている岩木健康増進プロジェクトは単なる大規模健康診断ではありません。冬季期間に弘前市岩木地区や相馬地区で希望された住民の方達を対象に週1回1時間の運動プログラムを継続して行い、運動による内臓疾患(主にメタボリックシンドローム)と同時に運動器の健康増進をモニタリングし、かつ健康に関するミニレクチャーを行い、健康とそれに対する意識をトータルで向上し、最終的には健康寿命の延伸に繋げるという確固たる目標があるからです。この血と汗の滲むばかりの壮大な取り組みを既に10年間も継続してきたのです。
 今回の受賞と同時に脳裏を去来するのは、我々弘前大学整形外科学講座に与えられた責任は非常に重大であるということです。積もる雪を掻き分け、いつも元気に来て頂く岩木地区や相馬地区の住民の方々の多大なる御協力と弘前大学の多くのスタッフの皆様が結集したマンパワーから得た結晶たる情報に対し、我々は真摯に向き合い、青森県の方々の運動器の健康増進は当然のこと、さらには健康寿命延伸のために益々ケッパらなければなりません。自分はA4の紙1枚にこの10年間の結晶を要約しただけです。今回の受賞は岩木健康増進プロジェクトの運営に携わる全ての方々が受け取るべきであると思っております。今後も弘前大学整形外科学講座は岩木健康増進プロジェクトを通じて運動器の健康増進に向けた情報を国内外に発信し続けることでこの名誉ある賞に応えたいと思います。以上、報告いたします。

※恥ずかしながら、平成26年末に古傷である左ひざの手術(自家培養軟骨細胞移植術)を受けました。折角の授賞式を不本意な形で欠席いたしましたこと、関係者の皆様には多大なる御迷惑をお掛けしました。この報告の場を借りて深くお詫び申し上げます。『運動器の大切さ』について身を持って知った次第です…


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